善意

 ノスターの兜の手がかりも見つけられないまま時間が過ぎていく。「もし見つけたら」という約束だったし、ここは焦らず行くとしよう。

 そう言えば吟遊詩人の大学ばかり気にかけてウィンターホールド大学へあまり顔を出していないことに気付いた。先日、ウラッグからトルフディルに会いに行くように言われていたがまだ会っていなかった。急いでウィンターホールド大学のトルフディルのところへ赴いた。
 トルフディルは持ち帰った「マグナスの目」の前にいた。さっそくウラッグに会いに行くように言われたと伝える。
 「彼は我々の素晴らしい発見を知っているのか?」
 「涙の夜という本を読むべきだと考えているようです」
 「そうか、後でアルケイナエウムに寄るとしよう。」
 そういうと、更にトラフディルは独り言のように話を続けた。
 「なぜだか分からないが、どうもここを離れることが出来ない。こんな美しいものは今まで見たことがない。もし、少しだけ好きなようにさせてくれるなら、観察してみたいのだが。
 あの印を見ただろう。今まで見たことのないものだ。アイレイド、ドゥーマー、デイドラ、ファルメルでさえもない。どの種族も合致しない。実に興味深い。
 さて、適合できるかな。経験の差はあるが、感じ取れるか? この素晴らしい物体‥魔法を放射しているも同然だ‥こんなものはみたことがない‥。
 アークメイジのアレンはすでに懸命に取り組んでいる。早くもう少し解明出来るといいのだが‥。さて、私は‥」
 そこへアンカノがやってきた。
 「失礼ながら口を挟ませていただきます。この見習いと早急に話をする必要があるのです。」
 「なんと愚かな! 重要な研究の最中だぞ!」
 「ええ、もちろん重要でしょうとも。しかしこの件は後回しにできません。」
 「こんな形で中断させられるなど初めてだ‥なんという厚かましさ! それでは邪魔が入らないときにこの続きをやるとしよう」
 そういうとトルフディルは去っていった。そして、アンカノが私に向かって一緒に来てくれと言ってきた。私はいきなりの事に戸惑っているとアンカノはこう続けた。
 「状況を説明しよう。サイジック会から来たと名乗る人間が、なぜこの大学に現れたのか知りたい。むしろ重要なのは、なぜ彼が君を名指しで探しているかだ」
 サイジック会‥‥サールザルのあの亡霊もそう言っていた。
 「よって我々はこれから彼と少し話をして、一体何をしたいのか聞き出す」
 アンカノの行動に顧問としては行き過ぎる部分があると感じた私はそのことを聞いてみた。
 「名目上はそうなるな。だが私もアルドメリ自治領に報告を行う立場にある。この状況を見過ごすわけにはいかないのだ。心配しなくてもいい。この一件が片付いたら、くだらん仕事と意味のない研究に戻ってくれてかまわん」
 彼には彼の事情があるのであろう。しかし、くだらん仕事、意味のない研究とは言いすぎでだ。一瞬、顔にでそうになったが、ぐっと堪えアンカノについて行く。道すがらアンカノは話を続けた。
 「君には件の、僧兵と話をしてもらいたい。なぜここに来たのか聞き出し、その後、彼を大学構内から追い出す。」
 そして訪問者の居るアークメイジ居住区へと入った。

ノスターの兜はクエを受けた時点で行く場所はマーカーで知らされます。実際にはそういうことはあり得ませんので、場所を知らないという設定にしています。

 訪問者クアラニルの元へ向かうと、サールザルで体験した時間の止まったような感覚に陥った。周りを見渡すとやはりクアラニルと私以外の動きは止まっているようだ。そして、クアラニルが口を開く。
 「直に会えてうれしいよ。
 ようやく内密に話せる機会を得られたな。しかし、あまり長くは話せない。手短に済まそう。大学は現在、非常に切迫した状態にある。お前に接触を試みようとしていたのだが、これまではそれが叶わずにいた。
 その原因は、我々が抱えている問題の根源でもある。いわゆる‥マグナスの目と呼ばれているものだ。アレから放出されているエネルギーは、我々がお前に接触を図る障害となっていた。お前が既に見たあの幻のせいだ。アレがここに長く留まるほど、それだけ状況は危険になっていく。だからこそ、何か手を打たなければならないと自ら伝えに来たんだ。」
 危険だというのであれば、何か手を打ったらいいのではと進言する。
 「ところが話はそう簡単じゃない。サイジック会は通常、問題には直接介入しない。それは理解してほしい。私がここに居る事を、会の一部の者は反逆行為と見なすだろう。そのため、成すべき事を終えたら、すぐに大学を離れるつもりだ。
 ここに来た事で疑念を生んでしまう事は十分承知している。特にお前のサルモールの仲間アンカノにとっては。それでも会が直接行動を取ることはない。つまり、お前が何とかしなければならないということだ。
 すでに分かっていると思うが、あの目は強力な力をもっている。この世界はアレを使いこなす準備ができていない。ここに置いておけば悪用されるだろう。事実、会の多くの者は既に‥いや、まもなく何かが起きると考えている。避ける事のできない何かが。」
 サールザルの時も今回も、この件に関しては私が引き金になっているみたいだが、荷が重い。とは言え、彼は私に接触してきたし、私が動くしかないのだろう。私は重い口を開き、何をすればいいのか確認した。
 「お前には事後の収拾に力を注いで貰わなければならないと考えている。だが、何が起こるかは想像もつかない。既に会の一因としての一線を踏み越えてしまっているかもしれない。だが、頼みがある。この大学内でダンレインの預言者を探しだしてほしい。彼の見識は我々のものに近いだろう。」
 ダンレインの預言者? そんな人がいるとはトルフディルからもアークメイジからも聞いたことがない。一体何者なのかを聞いてみた。
 「かつてはこの大学の学徒だったんだ。今は‥‥どうも変わってしまった。どこにいるか確かな事は分からない。大学内のどこかに居るはずだ。お前の仲間の誰かが居場所を知っているはずだ。
 悪いがここでお別れだ。引き続き、導き役として最大限の力を尽くそう」
 そう言うと、いつもの感覚に戻った。しかし、アンカノはこの一瞬の「間」に何か気付いたようで、クアラニルに問いただしている。
 「隠し立てをするな。大学のとある在籍者に会いたいと言ったのはお前だろう。さあ、彼女はここだ。一体何をしに来たのだ?」
 「誤解があったようだ。明らかにここに来るべきではなかった。立ち去るとしよう」
 「なに? これは何の真似だ? お前が何を企んでいるのか判るまでどこにも行かせんぞ!」
 「何も『企んで』などいない。気分を害したというのなら謝る」
 「覚えていろよ‥」
 アンカノはそう捨て台詞をいうと去っていった。そして、クアラニルもその場を後にした。
 その場にいたサボス・アレンは何が何やら分からない状態に陥っていた。アンカノが去ったのを確認するとサボスに預言者のことを聞いてみた。
 「トルフディルはまたその話を蒸し返したのか? 世間話に持ち出すような事柄ではないとあれだけ釘をさしておいたものを。今後はその件に触れようとしても相手にしないでやってくれ」
 これはトルフディルに聞いた方が早いようだ。そして、何か大学に隠し事があるのかもしれない。私はサボスに一例をしてその場を後にした。
 達成の間に向かいトラフディルにダンレインの預言者について話を聞いてみた。
 「ああ、長らく聞いていなかった名前だ。
 彼とはもう長く話をしていないのだ。定かではないが、おそらく今でもミッデンにいるのだろう。」
 ミッデン? 大学内でそんな場所があるとは聞いた事がなかったので場所を確認する。
 「大学の地下にある。あまり安全でないから、行くときには十分に気をつけることだ。入口は平常の間の横の床にある」
 私は早速ミッデンに向かうことにした。

 ミッデンはかなり広かった。所々にキノコが生えていたり、白骨があったりと不気味な様相をしている。今のところ生物の気配は感じないが奥へ奥へと進んでいく。
 しばらく進むと儀式を行うのであろうか大きな装置があった。その手前には机があり、精霊の鋳造器具の手引きという本があった。この装置で何か鋳造できるのだろうか? 今は預言者を探すほうが先と自分に言い聞かせその場を後にする。

 間もなくして1つの扉を発見した。その奥に進むと更にもう1つ扉がある。
 そこは人工物と自然な環境が作り出した場所(ミッデンダーク)だった。少し進むと扉を発見した。扉の前に立つと中から声が聞こえた。
 「忍耐は失望へと変わるだけだ。諦めないのか? よろしい、では入りなさい」
 そういうと扉が開き、中に青白い大きな球体なようなものが見えた。ダンレインの預言者なのかと問う。
 「私を探していたようだな。
 お前の努力は無駄だった。もう始まってしまったのだ。だがお前を送りこんだ連中は、何を探しているのか言わなかっただろう。お前が探すべきものが何かを。」
 私は預言者を見つけるように言われたと伝える。
 「なるほど、だから来たわけか。だがその理由はしらないだろう。前にもそんな奴らがいた、自分の破滅への道をやみくもにたどる連中が。サルモールも答えを求めてやってきた。自分のやっている事が何に繋がるかも知らずに。お前も同じ道をたどるだろう。ただしお前の場合はもう手遅れだ。
 サルモール!? 誰が来たんだ?
 「アンカノと名乗る男の事だ。彼はマグナスの目に関する情報を求めている。だが彼はまったく別のものを見つけるだろう。彼の道はやがてお前の道と交わる。しかしその前に必要なものを見つけなければならない」
 どうやら、この必要なものというのをクアラニルは探してほしいのだろう。預言者にそれは何かと聞く。
 「お前と協力者たちは、マグナスの目に関してもっと知りたがっている。そしてお前は災厄を避けようとしている。まだその存在にすら気付いていないのに。視力を奪われずにマグナスの目を通して何かを見るにはマグナスの杖が必要だ。
 様々な出来事が、避けようのない中心へと急激に収束しつつある。急がなければならない。今知ったことを、お前のアークメイジに伝えるのだ。」
 そういうと青白いソレは姿を消した。ミッデン・ダークの中はまだ完全に調べてはいないが、事は急を要する。急いでミッデンを後にしてアークメイジの元へ向かうことにした。

ミッデン(・ダーク)内部にはクモやドラウグル、氷の生霊が若干居る程度。とは言えスパイダーは気をつけないと脅威に変わることには違いありません。

 元素の間のマグナスの目の前に行くとフィニスが大学の方針を学生に説明をしていた。それによると召還魔法の禁止ということだった。話が終わるとアークメイジのサボスへ預言者のことと重要な事柄を伝え、マグナスの杖を見つけ出したい旨を伝える。
 「確かに、それほどの力を秘めた杖があればと心から願う。だが、実際に必要だとは思えない。」
 私は預言者に会い、マグナスの目との関係があることを説明した。
 「本当か? お前のその姿勢には感心している。もちろん、この件は誰かに徹底的に調べて貰わねばならないが。」
 調査をしろということだろう。何をしたらいいかサボスに確認をする。
 「マグナスの杖のように特別で太古よりあるもの‥他に同じようなものを見つけるのは難しいだろう。最近の事だが、ミラベルが杖について確かに言及していた。彼女から何か聞き出して来ては貰えないだろうか」

 課外授業だったサールザル調査がこんな大きな事件に発展するなどと誰が予想したことだろうか。しかも私はその中心にいるようだ。力を付けるために大学の門を叩いたがこんなことになるとは予想すらしていなかった。
 今更、泣きごとを言っても仕方がない。今は少しの情報でもほしい。ミラベルの元へ向かうとしよう。